遺言の有無は相続手続きの運命の分かれ道
人が亡くなると、遺された財産をどうするのか、という遺産分割の問題が必ず発生します。
実務上、その時にまず確認をしなけらばならないのが遺言の有無です。
それによって、遺産分割の方法が全く異なります。
遺言がないことの危険性
遺言がない場合、法的に相続財産を引き受ける権利のある人「法定相続人」が話し合い、誰が何を引き継ぐかを決めることになります(これを遺産分割協議といいます)。この方法は、以下のように実に多くの危険性があります。
争いが起きやすい
遺産分割を巡る争いは実際上、相当高い可能性で発生します。(語弊はありますが、遺産分割は一生の内に何度もない、大きな財産を目の前にする場面なのです)
このような場面においては、普段は仲の良い家族であっても、全員が100パーセント満足するような分割方法は、まずありません。
このため、話し合いで解決したとしても、しこりが残ったり、その後疎遠になってしまったりすることも少なくありません。また話し合いがつかずに裁判にまで発展してしまい、骨肉の争いの末に絶縁してしまうようなことも、現実に起きています。
不公平になりがち
遺産分割協議で決めるとなると、相続人同士の力関係が大きく影響することになります。
例えば奥さんを遺して亡くなられたAさんにはお子さんがおらず、ご両親も既に他界、ご兄弟が3人いたとします。
この場合、法律上の取り分(法定相続分)は、奥さんが4分の3、兄弟は12分の1づつとなります。大部分が奥さんの取り分になるはずです。
ところが4人の話し合いで決めることになった時に、奥さんはご兄弟に対して立場が弱く、その権利を主張できない恐れがあります。ご兄弟に押し切られて話し合いの結果が奥さんにとってかなり不利なものであったとしても、泣き寝入りをすればそこまで遺産分割協議は成立してしまうのです。
協議が長期化する傾向がある
遺産分割協議は法定相続人の全員が同意するまで成立しません。それまでは、預金も下ろせませんし、不動産の所有権移転もできません。
そもそも相続人が集まるだけでも大変な場合が少なくありません。
(日本に住んでいない、疎遠で連絡がつかない、前妻との子供で顔を合わせたくない、など)
法定相続人以外は財産を受け取れない
法定相続人ではなくても、生前にお世話をされた方(息子のお嫁さんなど)に財産を遺したい場合もあると思いますが、遺産分割協議による方法では、法定相続人以外の方が財産を受け継ぐことはできません。
相続人からの贈与とすることは可能ですが、税金面で非常に不利となります。
遺言の重要性
遺言がなく遺産分割協議をする場合には、上で挙げたように多くの問題がありますが、その殆どは生前に遺言をすることによって解消あるいは大きく軽減できます。
争いを防止できる
基本的に遺言の内容が最優先されます(もちろん遺留分などの法的問題をクリアした遺言書である必要がありますが)
遺言を無視して遺産分割協議をすることができますが、一人でも反対すれば、やはり遺言どおりの分割となります。
もしかしたら、相続人の誰かが遺言の内容に不公平感を持つかも知れません。
しかし、遺言は財産を遺した当のご本人の意思ですので、法的のみならず、ご遺族の心情的にも、尊重されることがほとんどです。
また、必ずしも平等とは言えない遺言の場合であっても、その理由、もしくはそうせざるを得ない事情、それでも何よりも円満な引き継ぎを望む、そんなメッセージを綴ることにより、よりご遺族の納得を図ることができます。
手続きが迅速
遺言書は(公正証書遺言であれば)、亡くなってすぐに効力が発生します。このため遺言通りの遺産相続(預金の名義変更、不動産の所有権移転)の手続きを速やかに行うことができます。
法定相続人以外にも財産を遺せる
分割協議ではできない、法定相続人以外の方に財産を遺すことも、遺言を作れば可能です。